彼が事故に遭って緊急搬送されている。その知らせを受けたのは、国民的アニメの放送が終わって少ししてからの頃だった。彼の母親からその連絡を貰った私の母親が「祈、陽光君がトラックに撥ねられたって…今…電話が来た」そう云って、私の目の前で泣き崩れた光景を鮮明憶えている。
聴き間違いかと思ったし、何か悪い冗談を云っているのではないかと思った。否、そうであって欲しかったのだ。
だって、彼はついさっきまで私といつも通りに過ごしていて、普通に会話もしたし、肩を密着させ合いながらゲームや読書に耽っていた。数十分前まで、確かに彼はここに居たのだ。陽光の残り香が私の部屋には染み付いているし、彼がいた痕跡だってそこら中に散らばっている。
『ひ…かりは?陽光は、何処に?』
『緊急搬送された病院では手当が困難らしくて、ドクターヘリで大きな病院に搬送されているって。』
『陽光は大丈夫…なんだよね?生きてるよね?ちゃんと帰って来られるんだよね?』
『………。』
『ねぇ!!!答えてよお母さん!!!!』
『…っっ…分からないの!!!まだ、まだ何も分からないの。ただ一つ明確な事は…。』
“陽光君の状態が、良くはないって事なの”
全身から血の気が引いていくのがよく分かった。頭が真っ白に埋め尽くされ、全ての思考が停止した。何も分からない。何も考えられない。陽光が事故に遭った?トラックに撥ねられた?
さっきまであんなに笑っていたのに?子供みたいに昼寝もしていたのに?ご飯だって美味しそうに食べていたのに?そんな陽光が、救急搬送された?こんなの、悪い夢だ。そう思った。
しかしながら、私がその悪い夢から醒める事は許されなかった。