『アイスクリームが食べたい。』



あんな下らない我が儘なんて口にしなければ良かったと何度悔いたか分からない。

夏がすっかり本格化した七月十八日。この日は私の部屋に陽光が入り浸っていて、エアコンの効いた室内でダラダラと二人で休日を過ごしていた。世の中の人間が来る月曜日に対して憂鬱になる時刻で、もう少しで国民的アニメが始まろうとしていた。



『何処行くの陽光。』

『何処って、祈アイスが食べたいんだろ?買って来るよ。』

『え、ラッキー。』

『少年週刊誌買ってなかったからついで。いつものクッキーアンドクリームの奴?』

『うん。』

『ん、それじゃあ行って来る。』



やり込んでいたゲームに飽きたのか、それとも全クリしてしまったのか、電源を切ってそれをベッドに放り投げた相手が立ち上がってバイクの鍵を手にしてヒラヒラと手を振る。

本当は一緒に行って他の軽食を見たい所だったけれど、生憎彼のバイクの後ろにはまだ私は乗る事ができない。来年の今頃は二人でバイクに乗って行けたら良いな、なんて淡い期待を寄せながら私もヒラヒラと手を振って彼の背中を見送った。



私の部屋を出て行く陽光の背中が、ずっとずっと脳裏にも瞼の奥にも焼き付いている。あの日、あの時、貴方の去ろうとしている貴方の背中にしがみついて意地でも貴方が外へ出るのを制していれば良かった。

「行かないで」って背後から無理矢理抱き締めれば良かった。「好きだよ」「愛してるよ」「私と付き合って」ってなりふり構わず叫べば良かった。そうすれば、未来は変わっていただろうか。貴方の温もりを、まだ隣で感じられていただろうか。



ねぇ、陽光。私のアイスクリームなんか買わなくても良かったよ。