すぐにでも頷きたかった。陽向の告白を受け入れて、私も好きだと叫びたかった。だけどその前に、私にはしなくてはいけない事があった。
「…実はね、陽向に聴いて欲しい話があるの。」
「話?」
「うん、それを聴いてもまだ私を好きだと想ってくれるなら、喜んで付き合いたい。私、陽向の恋人になりたい。」
学んだから。好きな相手に「好き」と伝えられる事は決して普遍的な事じゃないって、今の私にはちゃんと分かってるから。だから、恥ずかしさも緊張もあるけれどちゃんと「好き」を相手に贈りたい。
それもこれも、貴方が教えてくれたんだよ、陽光。
「分かった。それじゃあその話を聴かせてくれる?」
真剣な面持ちで躊躇いも見せずに相手が首を縦に振ってくれたから、私は心を決めてゆっくりと口を開いて語り始めた。牧瀬 陽光と云う人物の話を、初めて誰かの前で口にした。
「物心つく前から私には幼馴染がいて、家もご近所同士で、何をするにもその幼馴染と一緒だったの。牧瀬 陽光って名前の男の子で、羨ましい程に顔が整っていて、ムカつく位優しくて、どうしようもなく良い奴。それが牧瀬 陽光と云う人間で……。」
“私はそんな彼が、好きだった”
零れ落ちた言葉に、傾聴していた相手がゴクリと息を呑んだのが分かった。微かに目は見開かれ、双眸がユラユラと頼りなさ気に揺れていた。陽向のそんな新しい表情も、言わずもがな美しかった。