ずっと、ずっと私を事を気にしてくれていたんだ。入学した頃からずっと、本当に陽向は私に話し掛けたいと思っていてくれたんだ。
どうしよう、ありふれた陳腐な感想だけれどとっても嬉しい。嬉しい以外の言葉が出てこない。
胸がこれでもかと締め付けられる。目の前ですっかり赤く染まった顔を両手で必死に覆って隠そうとしている彼が、これ以上になく好きだと感じる。
「良かったね、難波君。長年の想いが実って私も嬉しいよ。」
「…こうして改めて言われると照れるけど…うん、ありがとうございますマスター。」
視線を泳がせながら曖昧に頷いて、陽向が苦笑を滲ませれば、マスターは「若い二人の邪魔をしてごめんね、ゆっくりしていってね」と優しい言葉を残してその場を去ってしまった。
「……。」
「……。」
テーブルに残ったのは私達二人と、二杯のカフェオレ。
さっきまで極々自然に会話を繰り広げられていたのに、あの私は何処へ行ってしまったのだろうか。何の言葉も出て来なくて、かと云ってこの沈黙に耐えられる自信もなくて、仕方なく渇いてもいない喉にカフェオレを流す。
気まずい心情を抱いていたのは彼も同じだった様で、鏡を見ているのかと錯覚するくらいに同じタイミングでカフェオレを口に含んだ彼と視線が絡み、見事にシンクロした動きに二人揃って吹き出した。
「あはは、真似しないでよ陽向。」
「あはは、祈ちゃんの方こそだよ。」
互いの笑い声が貸し切り状態になっている静かな店内に響き渡る。今の私達は初めて会った時よりもずっと、不自然と違和感に満ちていたに違いない。あからさまに意識し出した自分達を客観視すると可笑しくて仕方なかった。