お互いが気になっていた純喫茶をプレゼンし合って、二人で厳選した内の四店舗目を訪れる頃には外はすっかり黄昏時になっていた。
私達の趣味趣向が似ているからなのか、今日巡ったどのお店も外れがなく、寧ろ漏れなく大当たりだった。そしてここが本日の純喫茶巡りの最後を飾るお店だった。
「いらっしゃいませ。こんばんは、難波君。」
カランコロンと来客を知らせる音が鳴り、カウンターの中でグラスを拭いていた見覚えのある顔がこちらへ視線を投げた途端破顔した。
「こんばんは、カフェオレを二つお願いします。」
隣に佇む彼が人差し指と中指を立てて口許を緩めれば「すぐに準備するから座って待っていてね」と相手が返事をした。お昼時はサラリーマンらしき客がちらほらと見受けられたけれど、流石にこの微妙な時間帯にここを訪れる人は少ないらしく、店内は貸し切り状態になっていた。
陽向と私が初めて邂逅した純喫茶。そこが、私達の選んだ今日の旅路を締めくくるお店だった。
「大して時間は経ってないはずなのに、何だか懐かしく感じるから不思議。」
「ふふっ、実は僕もここに来るのは祈ちゃんと出逢ったあの日以来だから、少し緊張してるの。」
「え、そうなの?」
「うん。レポート提出とテストが重なって中々行けてなかったからマスターに忘れられちゃってたらどうしようって不安だったけれど、杞憂だったみたい。」
幼馴染の彼を想って涙を落とした席と全く同じ席に、今日は私だけじゃなくて陽向も座っている。昼下がりには明るい陽が射し込んでいた窓際のこの席は、テーブルの所々が日に焼けて色褪せている。
外がすっかり薄暗くなっているせいで、頬杖を突いて目を細める彼の長い睫毛の影が頬にまで伸びていない。その代わりに暖かみのある橙色の照明が、陽向の美しい横顔の影をテーブルに映し出していた。