「今日の祈ちゃんも可愛いね。その花柄のワンピースも、三つ編みされた髪も、それを留める白いリボンも、麦藁帽姿も全部可愛くて綺麗だね。」
息をするかの如くとても自然にそんな台詞を彼が紡ぐから、胸の奥がキュンと鳴って擽ったくなった。頬だけでなく、首も耳も熱くなる。今にも熱中症で倒れてしまいそうだ。それ位、クラクラする。
彼に可愛いと思われたくて入念に準備していた数時間前の自分が脳裏を過ぎった。柄にもなく鼻歌まで奏でながら髪を編んで、不器用だから何度もリボンを結び直した。それ等が彼のたった一言で全て報われてしまう。
張り切り過ぎかなとは思いつつも時間を掛けて良かった。沢山悩んだけれど、このワンピースに決めて良かった。彼に会えた嬉しさに、装いを褒められた喜びも加わった私の心は、すっかり躍っている。
「あ、ごめんね、急にこんな事言われても驚くよね。つい本音が出ちゃった。」
こちらが口を開かなかったからなのだろう、眉を下げて気まずそうに相手が苦笑いを見せるから私は慌ててブンブンと首を横に振った。
「嬉しい。陽向に可愛いって言われてとっても嬉しい。だから、謝らないで。」
身体の中で、彼への感情が燻ぶっている。迸る様な、滾る様な、熱くて強烈な感情がもう抑えが効かなくなる寸前にまで溢れている。
私の漏らした一言が意外だったのか、相手は僅かに目を見開いた後に目を細めてふふっと中性的で艶のある声を響かせた。
「うん。可愛くて綺麗だよ、祈ちゃん。」
きっともう、これ以上誤魔化すのは不可能なのだと思った。自分の心を騙すのも、自分の感情に嘘を付くのももう限界なのだと察した。