我が家の玄関扉に手を掛けた私は、深くて短い溜め息を吐いた。今日一日気を張っていたからなのか、将又《はたまた》、海里に感情を振り回されて疲弊してしまったからなのか、急にどっと身体が重くなった。
まだまだ熱の余韻が全身に残っていて、冷たくて甘いアイスクリームを脳が欲する。だけどもう夜も遅い。それに、今日ばかりはアイスクリームを食べるのは気が引ける。
「お風呂にゆっくり浸かって整理をしよう。」
独り言にしては大きな声が落ちた。心の底からの声だからなのかもしれない。
取り敢えずじっくり熟考して、整理をしたかった。何を整理するのかと問われればその答えは「色々」だ。これまでの事や、これからの事。陽光の事。そして、陽向の事。兎に角今の私には整理整頓する時間が必要だった。
目を背け続けていた整理整頓をする勇気を持てたのは、他の誰でもない、我が家の門に凭れかかって過保護に私が家に入るまで見送るらしい彼のおかげだ。
海里の的を得た痛烈な言葉が、ブレブレに揺れ動いていた私の心を助けてくれた。海里の取ってくれた行動を無下にはできない。ちゃんと自の恋心と付き合う決心がやっとついた。
「海里、今日は本当にありがとう。」
「こちらこそ。これからは定期的に俺と会ってね。」
「あはは、うん分かった。」
冗談っぽく台詞を放つところが何とも彼らしい。門の所からヒラヒラと手を振っている彼を一瞥して、私も手を振り返す。「あ、ちょっと待って祈姉ちゃん」玄関扉を開けた私の足は、背中が受け取ったその声によって制された。
くるりと振り返ってどうしたのかと云う意を込めて首を右に傾げる。何やら思案を巡らせた様な仕草を見せた後、海里は靨《えくぼ》を頬に浮かせながら開口した。