暫しの沈黙が流れ、漸く涙が枯れた頃、罰の悪そうな顔をした相手がこちらの顔を覗き込んだ。



「落ち着いた?」

「…うん、取り乱してごめんね。」

「俺の方こそ強引に詰め寄ってごめん。でも、ああでもしないと祈姉ちゃんは兄貴の為に自分を縛り続けてしまいそうだったから。」



どうやら、何もかもお見通しだったらしい。図星を見事に突かれた私は、海里の発言にぐうの音も出なくて眉を八の字に下げた。もしかすると海里は最初から、いつまで経っても自分を許せないでいる私を解放する目的でわざわざ家まで送ってくれたのかもしれない。


何処までもつくづく柔和な部分まで、この兄弟はそっくりだ。そう思って、私は苦笑を滲ませた。



「ありがとう、海里。」

「ん?」

「五年間もまともに顔を合わせられなかった私を迎え入れてくれてありがとう。それから、背中を押してくれてありがとう。」

「ん、どういたしまして。」



視線を絡めて感謝の言葉を並べれば、頬を仄かに赤くさせて相手がくしゃくしゃと髪を掻き乱す。照れ隠しなのか視線も逸らす彼の横顔は、凛としていてその中にも可愛さがある。



「本音を言うと少し…否、かなり悔しいけどね。」

「悔しい?」



首を捻って訊き返した私へ双眸を向け直した彼が、大きく一度だけ頷いた。陽光の年齢を超した彼の大人の色気を含んだ顔に浮かぶ三日月が妖艶で、無意識にゴクリと息を呑む。

キラリと存在感を放った流れ星が、夜空の中に溶けて消えたのとほぼ同時だった。



「俺が祈姉ちゃんを幸せにしてやるとかいっちょ前に思ってたから、祈姉ちゃんに好きな人ができて悔しいってこと。」

「…っっ…。」

「ははっ、なんてね。」


“冗談だよ、気にしないで”



湿り気の残る私の両頬を掌で柔らかく挟んだ彼の体温よりも、その時ばかりは私の体温の方がずっと熱かった。