あーあ、今日は絶対に泣かないって決めていたのに。今日こそはちゃんと成長した私の姿を陽光に見て貰おうと思っていたのに。最後の最後にこんなに泣いてしまうなんて、予定外だ。
ポロリポロリと溢るる涙を拭う海里の指先がそれはそれは狡くて、私は余計に目頭を熱くしてしまう。
「ごめん、ごめんね海里。海里の言う通り私はきっと、彼の事が好きなんだと思う。」
「うん、知ってる。そもそも謝る必要なんてこれっぽっちもないよ。」
「だけど陽光への気持ちが消えた訳でもないの。」
「うん、それも知ってる。だから兄貴への感情を忘れてなんて言わない。俺はただ、祈姉ちゃんに幸せになって欲しいだけだよ。幸せになる権利が祈姉ちゃんにはあるから。」
降り注ぐ言葉が私の全てを包み込んで温める。年甲斐もなく泣きじゃくる私の背中を、二つも下の海里はくしゃりと優しく表情を崩して擦ってくれる。
ねぇ、陽光。私ね、陽光が好きだよ。貴方が私の初恋の相手だし、私は貴方を愛してる。貴方が私の傍で笑ってくれていた時に、この感情をちゃんと言葉にして紡げば良かったって何度思ったか分からない。
だからね、もう同じ後悔だけはしたくないの。自分のこの感情をちゃんと声に乗せて、今度こそは面と向かって相手に伝えたいの。
そんな私の我が儘も、底無しに優しい貴方は平然と許してくれると分かっていたから私は自分で自分を戒めていた。自分で自分を許さなかった。激しく葛藤して、悩んで、苦しんで、悲しんで…それでも心はやはり残酷な程に素直で陽向へ芽吹いた恋情はすくすくと育ってしまった。
もう気付かないふりなんてできない位に、とっくに恋心は大きくなっていた。