海里が近づくから咄嗟に後退りしたものの、すぐに背中に冷たい門が触れて行き止まりだと覚る。伸ばされた二本の腕は複雑な模様を描いている門に辿り付き、まるで柵で囲う様に私の行き場を奪った。


陽光と同じ香りが強くなる。吐いた息がかかりそうな距離にまで迫った相手の顔は、太陽と比べると頼りない灯の下でも美しかった。



「ちょっと待って、海里。」

「待たない。」

「近いってば。」

「うん、わざとだから。」



何処へ視線を逸らしても相手の顔がしっかりと映り込む。浮かんでいるのは意地悪な笑顔なのに、見惚れてしまう美しさだから狡いと思う。



「祈姉ちゃんに好きな人がいて安心した。」

「……。」

「兄貴に対して罪悪感とか抱いていたらどうしようって心配だったから。」

「まだ好きとは…「好きだよ。祈姉ちゃんは、きっとその人の事が好きだよ。」」



本当は何となく、薄っすら勘付いてはいた。だけどそれに気付かないふりをしていた。気付いてはいけないと自分を咎めていた。必死に理由や言い訳を掻き集めては自らに言い聞かせていた。


だから、こんなにも強く突きつけられてしまうと困るのだ。



「お願い海里これ以上言わないで。」

「兄貴は祈姉ちゃんを恨んでもいないし、憎んでもいないよ。」

「どうして…どうして海里もおばさんも、皆私に優しくするの?怒ってよ。お前のせいだって罪を背負わせてよ。」

「背負わなくて良いからだよ。祈姉ちゃんは罪なんて犯していない。俺も両親も、誰も祈姉ちゃんのせいだなんて一ミリも思ってないよ。だから祈姉ちゃんは、その好きな人と恋をしても良いんだよ。」



こんなにも現実を突きつけられると、私は自分の心に芽生えている感情を認めざるを得なくなってしまう。だから、だから困るのだ。