陽光の話に花を咲かせて、懐かしむ時間は一瞬にして過ぎ去り、気付けば牧瀬家の壁に掛かった時計が夜の十時半を回ろうとしていた。

流石にこれ以上長居するのは失礼だと判断し帰ろうとした私の腕を握って制した海里に、「送っていくから待って」と告げられ無下にもできず、星の輝く夜空の下で私は海里と肩を並べて歩いている。



家を二軒挟んだだけの短い帰路だから断ったけれど、念を押され最終的に私の方が折れてしまった。随分と前に太陽は西の彼方へ姿を隠したはずなのに、外は湿度が高くて暑かった。



「ケーキありがとう。俺の好きなケーキ憶えててくれたんだね。」

「勿論だよ、こちらこそ美味しいご飯ご馳走様。おばさんにも改めてお礼を伝えて貰える?」

「うん、分かった。」



月の灯りが今夜は明るくて、地面に薄っすらと私達の影が浮いている。拳一つ分空いたその距離は、私と海里の関係性を分かり易く表していた。



「あのさ、祈姉ちゃんは大学どんな感じ?」

「偏差値ギリギリで入ったから単位を取るのに必死だけど、それなりに充実してるよ。」

「友達とかできた?」

「おかげさまで大学三回生にして、やっと最近恵まれました。」

「へぇ、どんな人?」



問いを投げた彼が、半歩だけ前に出て私の顔を覗き込む。こちらを見る双眸は、好奇心と興味に満ち満ちていた。

一方で、質問を受け取った私は首を横に折って眉間に皺を寄せた。難波 陽向と云う人物をどう説明すれば良いのか脳味噌が悩んだからだ。