フォークの先で鶏の唐揚げを突きながら唇に放物線を描く相手とこうして会話を交わすのは、実に五年振りだ。気まずさがあったらどうしようかと懸念していたけれど、私の単なる杞憂だった様で、五年の月日が空いていたとは思えない程に自然と会話のキャッチボールができている。
すっかり大人びた雰囲気を纏っている海里への戸惑いは多少なりともあるものの、海里自身は何も変わっていない。優しくて純真無垢なままだ。
陽光も私と同じ様に歳を重ねていたら、海里みたいに色気を含んだ顔立ちになっていたのだろうか。優艶な微笑を湛えていたのだろうか。大人になった陽光も見てみたかったな。
「待たせちゃってごめんなさいね。今夜は祈ちゃんがいるから華やいでて嬉しいわ。祈ちゃん、来てくれてありがとうね。」
「いえ、こちらこそ私を迎え入れてくれてありがとうございます。」
「何言ってるの、祈ちゃんは娘なんだから今日に限らずいつでも来て良いのよ。」
無償の温かさで何の躊躇いもなく私を包み込んでくれるおばさんの言葉が胸に響く。気を緩めるとそのまま大粒の涙を落としてしまいそうだ。
勝手に後ろめたさを感じ罪の意識を持って生きていた私は、以前と変わらずに私と接してくれるおばさんと海里に感謝してもし切れない。
「お父さんこんな日に限って残業なんて、かなり悔しがってるだろうね。祈姉ちゃんに凄く会いたがってたよ。」
「そっか、それじゃあ今度はおじさんがいる時に顔を見せようかな。」
「そうしてあげてくれる?きっと喜ぶだろうから。」
距離ができていた分の時間が途轍もない速度で埋まっていく。まるで、私が牧瀬家に溶け込められる様に陽光が導いてくれているみたいだ。
小首を傾げる海里に頷いて応えれば、おばさんが「じゃあ頂きましょうか」と合図を出す。私達も続いて手を合わせて「いただきます」の声が豪華なご飯の並ぶ食卓に落ちた。