『あ、祈ちょっと待って。俺ここ寄りたい。』

『洋菓子店?』

『ん。ここに今日からカフェオレ味のパンナコッタが発売されるらしい。』

『またカフェオレ!?ついさっきまで飲んでたでしょ。』

『あれはあれ、これはこれ。』

『意味分からない。カフェラオレはカフェオレじゃない。』

『祈の好きなティラミスもあるから付き合ってよ。』

『…仕方ないなぁ。』



お店の経営者が当時の主人の息子さんに引き継がれたと同時に発売されたカフェオレ味のパンナコッタは、評判に評判を呼んで今ではこの洋菓子店の看板メニューになっている。



初めてここでカフェオレ味のパンナコッタを食べた陽光は珍しく興奮を露わにして、文字通りそのスイーツの虜になった。ここのカフェラテパンナコッタに憑りつかれた陽光は、毎日この洋菓子店に通い詰めていた。


それに付き合ってティラミスを食べまくった私は見事に体重が増加し、思い切り陽光に八つ当たりした事がある。



『陽光のせいで太った。最悪、責任取ってよ。』

『何で?どんな祈も可愛いよ。』

『うるさい。』

『祈がどんな見た目になっても俺は祈が好き。』

『……。』

『責任取ってと言われなくても結婚するつもりだけど?』

『げ、言質(げんち)取ったからね?』

『ん、一生忘れないで。』



全然太らない羨ましい体質している相手は、早三つ目のパンナコッタをスプーンで掬って口に含みながら口角を吊り上げて落ち込む私の髪をくしゃくしゃと撫でた。




嗚呼、懐かしいな。一生忘れられないよ。私だって陽光と結婚したかった……「祈ちゃん?」


店の前に佇んで思い出に浸っていた私の意識を攫ったのは、横から聴こえた知っている声だった。