「牧瀬家之墓」と云う文字が刻まれた冷たい石の前に、私は向日葵の花束と貴方が愛してやまなかったカフェオレを添えた。貴方がいなくなったこの五年は、長い様で短かった。


たかだか百円前後のカフェオレ一つでそれはそれは幸せそうにしていた貴方の顔を、もう見る事は叶わない。貴方を失って初めて気づいたよ、当たり前の幸福は当たり前なんかじゃないんだって。



「ねぇ、陽光。そっちの世界はどう?陽光なら何処へ行っても陽光らしく楽しく過ごしてるよねきっと。」



言わずもがな返事は聴こえない。私が開口すれば必ず貴方は言葉を返してくれたのに、その当たり前は今の私には存在していない。



貴方がいなくなって一年目の今日は、ここへ来る事すらできずに塞ぎ込んでいた。悲しみに暮れて絶望の底にいて目の前も未来も真っ暗だった。二年目は、貴方が行きたいと云っていた大学への進学を決めて猛勉強していた。やっぱりここへ来る勇気はなかった。


三年目、私は大学生になった。貴方のいない世の中は相変わらず退屈で、寂しさはちっとも埋まらなかった。四年目、初めてここへ貴方に会いに来られた。だけど途方もない虚無感に襲われて貴方の前なのに子供みたいに声を上げて泣きじゃくってしまった。


そして五年目の今日。漸く私は、貴方の前で笑える様になったらしい。



「去年は号泣してごめんね、優しい陽光に心配させてしまう様な事をして反省してる。私が泣いてばかりいたら陽光もゆっくり休めないよね。何処までも身勝手な私で申し訳ないよ。」



眉を下げて苦笑いする私の話を、陽光がカフェオレを飲みながら聴いてくれている様な気がする。いつもみたいに口許に弧を描き、頬杖を突いて耳を傾けてくれる陽光が頭に浮かぶ。