所々文字が剥がれた年季の入ったメニューを捲り、私の視線が留まった先にあったのは「カフェオレ」の文字だった。特別好きな訳じゃない。好きじゃないけれど、何処へ行ってもこればかり頼んでしまう自分がいる。
注文して数分、テーブルに置かれたアイスカフェオレが揺れるグラスは私みたいに汗をかいていた。
『そんなにカフェオレばかりで飽きないの?たまには違う物頼んでみたら良いのに。』
『馬鹿、店によってミルクとコーヒーの割合が全然違うんだよ。甘さも様々だし、カフェオレは奥が深いの。』
『ふーん、私にはさっぱり分からない。』
『分からなくて良いよ。祈は、俺の事だけ知ってれば良い。』
『は、はぁ?何言ってんの、暑さで頭煮えたんじゃない?』
『あはは、そうかも。』
脳裏に駆け巡る懐かしい会話を鮮明に憶えている。顔を熱くさせながらそっぽを向いた私に対し、貴方は楽しそうに笑っていたっけ。
他にも彼との会話は、数え切れない程に記憶している。下らなくて他愛のない話ばかりしていたけれど、彼がいるだけで楽しかった。彼がいるだけで私もケラケラ笑っていた。
「このカフェオレ、陽光が好きそうなカフェオレだね。」
水滴で曇るグラスに触れれば、私の指の痕が浮く。消え入る様な小さな声で発した言葉は、当然ながら返事を貰える事なくテーブルに落ちた。