黒い服とかで来られるのを嫌がる様な人間だから、この一目惚れしたくすんだ淡いピンク色のワンピースを今日の為に取って置いた。


髪を巻いて、スプレーを振って崩れを塞いで、高い位置でポニーテールをしてワンピースと同じ色のリボンを結んで装飾する。ドレッサーに並んでいる化粧品もデパコスが随分と増えた。すっかり慣れた手順で化粧を顔に施して、最後の仕上げに桜の花の色の口紅を唇に引く。



鎖骨辺りまでしかなかった毛先は、背中を撫でるくらいにまで伸びた。鏡に映る化粧をした自分の顔も、五年前まではあったあどけなさが消えている。


貴方はきっと、学ランの制服が良く似合う姿のままでいるのだろう。大人の色気と子供の純真さが混じった様なあの綺麗な顔のままでいるのだろう。私だけが老いていく当たり前の現象に慣れるにはまだ時間が必要みたいだ。



「忘れ物はないよね。」



お気に入りの香水を振りかけて、向日葵の花束を握り締めた私は自室を辞してすっかり太陽が昇り明るくなった外へと飛び出した。


ミンミンとあちらこちらで蝉が鳴いている。まだ六時半を過ぎたばかりだから、そこまで陽射しも強くなくて風も冷たさを孕んでいる。とても凛とした気持ちの良い朝だ。



空は雲一つないから今日も快晴に違いない。日中はさぞかし暑くなるのだろう。

人の少ない駅のホームから電車に乗り、ガタンゴトンと揺れながら、うんとお洒落した私を彼はどう思うのかなと思考を巡らせる。



『可愛いよ。』



微かに低くて艶めいたあの声で、そう云って欲しいな。なんて我が儘が心に芽吹いた。