風で靡いて鬱陶しい髪を束ねてゴムで一纏めにして「濃縮還元100%オレンジジュース」と書かれているパックを開封し、喉に流し込む。鼻から抜ける爽やかな香りと、口腔内に広がる甘酸っぱさはやはり私の大好きな味だ。
『祈はずっとオレンジジュースだな。』
『何よ、どうせお子ちゃまだとか思ってるんでしょ。』
『いや思ってないよ。可愛いなとは思ってるけど。』
陽光との何気ない会話までもしっかり記録している自分の海馬が、時々忌々しく感じる。不意を突いて脳裏を巡る記憶に、寂寞感だけが増幅していく。
どうしてこんな時にまで陽光との思い出が蘇ってしまうのだろう。泣いてしまいそうになるから、彼との会話は忘れたくないけれど、思い出したくもない。そんな身勝手で矛盾した感情に、自嘲的な笑みが零れる。
「あ、この表情だよ。」
いつもなら息苦しさに襲われているであろう瞬間だった。息苦しさに沈む寸前、正面から飛んできた一声が私を救ってくれた。
派手な色に染められた髪の奥から覗く蜂蜜色をした透明度の高い双眸と目が合った。
「こんな僕は、祈ちゃんに気持ち悪いって思われるかもしれないけれど、僕はどうしても祈ちゃんのその表情に心惹かれてしまうみたいなんだ。」
「何言って…「変な事を言っているって分かってるの。でも、それでもやっぱり僕の瞳には、悲しみに暮れた祈ちゃんが一番綺麗に映ってしまうんだ。」」