燦燦と照りつける太陽光が、首筋に若干浮いていた汗を輝かせた。数歩進んだだけでも毛穴と云う毛穴から吹き出る汗に、鞄から取り出したハンカチで応急処置をする。


見上げた群青色の空は眩しくて、遠かった。ハンカチを握った手で目元に影を作っても尚眩しい。思わず目を細めた私は思った。



嗚呼、今年もまたこの季節が来たんだね。



「……五年…か。」



陽炎が揺れるアスファルトに溶けた独り言は、誰の耳にも届かない。きっと、貴方にさえも届いていない。


近くにあったレトロな喫茶店の軒下に避難して肩を落とした私は、少しでも気を緩めるとまた涙を流してしまいそうだった。滲んだ視界に慌てたせいか、気付けば特別用もなかった喫茶店に足を踏み入れていた。



外観を決して裏切らない店の中は、珈琲の香りが漂っていて、その中に微かに煙草の匂いも混じっていた。文字通り昔ながらの純喫茶だった。その時代に生きた事はないけれど、まるで昭和にタイプスリップしたかの様だ。


入り口に突っ立ったままでも失礼だと思い、古びた深紅色の布が張られているソファに腰掛ける。




通っている大学の裏通りにこんな純喫茶があるだなんて知らなかった。もう大学に通い始めて二年以上になるのに、最近目まぐるしい開発によってお洒落なカフェが立ち並んでいる大学の表通りにばかり足を運んでいた。


静かな店内を見渡してもサラリーマンばかりが目立つ辺り、やはり大学生の(ほとん)どがこの店の存在に気づいていない様だった。