衝撃が大きかったせいで口を開いて唖然としていたのだろう、私の顔を覗いて「どうしたの?」と首を捻った彼の言葉で停止していた脳味噌が漸く働きを再開させた。



驚いた。ただただ純粋に驚いた。一言一句そっくりそのまま陽光と同じ台詞だった。心臓に悪い偶然に、バクバクと心音が激しさを増している。そんな私の胸中を相手に覚られまいと必死に平静を装って開口した。



「私の事気になってたって。」

「ん?」

「何かの冗談?」

「ふふっ、違うよ。言ったでしょう?本音だって。入学した時からずっと祈ちゃんの事が気になっていたけれど、勇気が湧いてくれなくて話し掛けられなかったの。」



取り柄もなければ褒めるべき点も大凡(おおよそ)ないであろう私の事が、目前にいる彼は気になっていたらしい。その言葉に嘘偽りはないのだと思う。何故なら現に彼はこうして私に話し掛けている。



普通、心底どうでも良いと思っている人間とわざわざ相席してまで食事をしようとは思わないはずだ。少なくとも私はそうだ。だからこそ余計に、彼が私を気にしている理由がさっぱり分からなかった。


唯一分かっているのは、この人と会話をする事が嫌ではないと云う事実のみだった。



「美人で素敵だから気になったってさっき言ったけれど、あの発言だけでは語弊があるかもしれないね。」

「……。」

「本当はね、今にも消えてしまいそうな程に祈ちゃんの横顔が儚くて、祈ちゃんの時折見せる悲しみに溺れた様な表情が気になったんだ。」

「…っっ。」

「それこそ最初は、祈ちゃんの美人で素敵な部分に視線を奪われていたの。だけど気付けば、祈ちゃんの儚さと悲し気な姿が気になってた。」



“ほぼ初対面の人間にこんな事を言われても困るよね、ごめんね”



眉を八の字にして苦笑を滲ませる相手を、失礼な人間だとは思わなかった。憤りだって覚えなかった。彼の言動から溢れ出ている誠実さこそが、彼に悪意がない何よりの証拠だったからだ。