スプーンとフォークでくるくるとパスタを巻いている相手をちらりと盗み見しながら、私も残りのパスタをフォークに巻き付ける。陽射しに晒された彼の雪の様に白い肌には血管が透けて見える。頬にまで伸びる睫毛の影は羨ましい限りだ。
「祈ちゃんって呼んでも良い?」優艶に笑んでそう問うた相手に対し首を横に振る事に抵抗を覚えた私は、ぎこちなくゆっくり頷いた。
「祈ちゃんはあの喫茶店によく行くの?」
「ううん、あの日初めて入ったけど気に入ったから常連になろうかなって思ってる。」
「そっか。あのお店素敵だよね、人も少なくて落ち着いてるし。」
「うん。カフェオレ…。」
「カフェオレ?」
「カフェオレ、好きなの?今も飲んでるし、あの喫茶店でもカフェラテを迷わず注文してたから。」
私の視線は、彼の手元にあるカフェオレのパックに注がれていた。高校の昼休み、陽光は決まってこれを飲んでいた。何でも陽光の中でこのカフェオレの甘さと苦さとミルクとコーヒーのバランスがパーフェクトなのだそうだ。
一切興味のない私に力説していた陽光の顔は、これでもかと云う程に生き生きとしていた。
「高校の途中くらいからかな、突然カフェオレが好きになって今では色々なカフェや喫茶店に行ってはカフェオレの飲み比べばかりしてるの。因みにこのカフェラテは個人的に市販されているカフェオレの中では一番僕の好みで、甘さと苦さとミルクとコーヒーのバランスが完璧なんだよね。」
相手の中性的な声で放たれた解説に、私は酷く吃驚した。
彼の発言は、まるで陽光が乗り移ったのかと錯覚するまでに聞き覚えのある物だったからだ。