硝子越しに数日違いで生まれた赤ちゃんと並んで寝息を立てている我が子の寝顔を目に映すだけで、産後の痛みが和らいでいく。『おなまえ』と記されたプレートには『難波 星光』と綴られている。
「星の様に輝いていて欲しいし、時には誰かの道をも照らす子になって欲しい。そして、僕と祈ちゃんとこの子を繋いでくれた陽光君から光の字を貰って星光《あかり》ちゃんって云うのはどうかな?」
「素敵!!!とっても、とっても素敵だと思う!!!」
照れ臭そうに、されど嬉々とした様子で語った彼の提案した名前の意味と響きに、私はすぐに虜になった。あれだけ難航していたのが嘘の様に、私達はこの子の名前を星光にすると決定したのだった。
秋の夜長に生まれた可愛い可愛い女の子は、陽向にとてもよく似ている。うちの両親も陽向の両親も、陽向にそっくりで驚いていた位だ。
「祈ちゃん、やっぱりここに居た。」
鼓膜を擽った声に反応して、視線が我が子から逸れた。切り替わった視界に映るのは、艶笑を湛えている愛おしい人の姿だった。
「足りなかったお着替えと、祈ちゃんが食べたがってたケーキ屋さんのタルト買って来たよ。それからオレンジジュース。因みに僕はカフェラテ。」
「ふふっ、相変わらずカフェラテが好きだね陽向は。着替えとケーキありがとう。」
「星光を見ていたの?」
「うん、どれだけ見ても飽き足りなくて。」
私の隣に歩み寄った彼も硝子の奥にいる我が子へ視線を向けて、幸せそうに目尻を下げた。怒涛の出産劇が終わった後に、彼から育休を取得したと聞かされた時は酷く驚いた。
「家族三人の時間を大切にしたいの」そう言ってくれた彼に、母親になっても尚私の心臓は大きく脈を打った。後二日すれば、私と星光は退院して家族三人だけの生活がいよいよ始まる。
ちゃんとできるだろうかと云う不安は勿論あるけれど、それ以上に楽しみで明後日がとても待ち遠しい。
「ありがとう。」
ポツリと漏らした言葉を相手は拾ってくれたらしく、首を傾げてこちらを見る。彼と視線を絡めた私は、満面の笑みを咲かせて言葉を続けた。