どんな名前なんだろう。もうすぐ教えて貰えるのに気になって仕方がない。徐々に近づく我が家に胸の鼓動が激しくなっていく。自宅の前に着いた時には、これでもかと云うまでに期待が膨らんでいた。
陽向が鍵を取り出して開錠し、ガチャリと玄関扉が開く。数時間振りの我が家は、相変わらず陽向の甘くて優しい香りが充満していた。「ただいまー」と暗闇に声を響かせて、靴を脱ごうとした瞬間だった。感じた事のない痛みが子宮に走ってぐしゃりと私の表情が歪んだ。
「祈ちゃん?」
突然ピタリと動きが停止した私に違和感を覚えたのか、後ろにいた彼から声が掛かる。痛い。間違いなく痛い。眉間に皺を寄せながらお腹を押さえて振り返った私は、戸惑っている相手に向かって開口した。
「陽…向。」
「祈ちゃん!?」
「……陣痛、来た。」
「…え。……え!?!?!?」
それからはもう波瀾の連続だった。這う様にソファに行き、陽向はすぐに病院へ連絡。痛くなったり治まったりを繰り返していく内に間隔が短くなり、入院セットを持って病院へ。何度も何度も出産の流れを勉強して頭に入れていたつもりなのに、一気に吹っ飛んで頭の中は真っ白だった。
やっとの思いで分娩室のベッドに辿り着いてからは、想像を絶する痛みとの闘いが待ち受けていた。死ぬのではないかと思う程の痛みの波が押し寄せて、我慢できずに声が漏れる。助産師さんの声掛けも全てちゃんと聴ける余裕はなく、殆どが右から左へ流れていく。
「ハァ…ハァ…痛い。」
「祈ちゃん頑張って。大丈夫だよ、大丈夫だから。」
激痛の波を何時間も掛けて何度も何度も乗り越え、これでもかと云う痛みに襲われた直後に破水。「もうすぐ生まれるから頑張って!」汗だくになりながら、助産師さんとお医者さんの言葉に合わせて呼吸していきむ。
そうして痛みに耐える事実に十六時間後、元気な産声が私の耳を突いてそれまでの痛みと疲労全てを掻き消した。