彼が余りにも美しく静かに涙を流して微笑むから、私の頬にも熱い雫が伝って、乾燥したアスファルトに落ちる。繋いでない方の手の甲でそれを拭えば、もう冷たくなっていた。
「な、泣かせないでよ陽向。」
「ふふっ、僕も泣いてるからお揃いだね。」
「あはは、陽向とお揃いなら嬉しいからいっか。」
照明が灯る駅が遠くに見える。肩を揺らして笑っていると、じわじわと相手の頬が桜色を帯びていくのに気が付いた。赤面して視線を逸らすのは、彼が照れている証だ。星空の下で顔を紅潮させる彼の優美さに息を呑んでまじまじと覗き込む。
すると陽向は、私の双眸から逃げる様に顔を逸らして「み、見ないで恥ずかしいから」と小さく声を絞り出す。
「え~、綺麗な陽向の顔もっと見たいな。」
「何言ってるの、祈ちゃんの方が何億倍も綺麗だよ。」
「…っっ。」
「祈ちゃんの頬っぺた赤くなってるよ。」
「ひ、陽向も赤いからお揃いじゃん。」
「…僕達、お揃いだらけだね。」
私の瞳には頬の赤い彼の顔が映り、彼の瞳には頬の赤い私の顔が映り込む。まるで付き合いたての男女みたいなやり取りを繰り広げる私達に呆れてしまったのか、お腹の我が子が元気いっぱいに脇腹を蹴る。
とっくに帰宅ラッシュが終えたホームは人も疎らで、アナウンス音がやけに大きく響いていた。
「ねぇ、今、凄い思い切り蹴られた。」
「私を仲間外れにしないでって言ってるのかな?…大丈夫だよ、仲間外れじゃないよ。」
「また蹴った!」
「本当だ!返事してくれてるみたいで可愛いね。」
ベンチに腰掛けて電車を待っている私達は、大きいお腹に二人で手を当てて激しい胎動に頬を緩める。刹那、夜の線路を照らしながらやって来た電車の扉が目前でプシューと音を立てて開いた。