私の母親に彼が挨拶だけしてそのまま帰るつもりだったのだけれど、それを強引な母親が許すはずもなく母の圧力に負けた私達は、結局安桜家で晩ご飯を食べてから帰路に就いた。丁度父親が出張で家を空けていたから母も寂しかったのかもしれない。


都心からちょっと離れただけなのに、夜空には満点の星空が広がっていてキラキラと輝いて美しかった。



「タクシーで帰ろうか?」

「んー、歩きたいなぁ。最近陽向とデートできてないから、一緒にゆっくり歩きたいかも。」

「分かった。それじゃあ身体が辛くなったらちゃんと言ってね?」

「うん。」



彼と手を繋いで来た道を戻る。街灯の下を通る度に伸びる繋がった影に、未だにときめいてしまう私の脳内にはお花畑が広がっているのだろうか。もしお花畑が広がっているのならば、それが永遠に続いて欲しい。


陽向も私と同じ事を想っていてくれるかな。想っていてくれると良いな。お父さんになっても、私に恋してくれると嬉しいな。



自分の生まれ育った町で彼と肩を並べる度に、新鮮で擽ったい気持ちになる。寝坊して寝癖を立てたままよく走った道も、学校帰りに小腹を満たすべく通っていた惣菜屋さんも、姿が変わらないまま残っている。


あちらこちらに散りばめられた思い出の欠片達を尊く感じられるのは、私の隣にいる陽向のおかげだ。彼と出逢えていなかったら、私は今頃どんな人間になっていたのか想像さえできない。



「星が降りそうな夜って、今日みたいな日の事を言うのかな。」

「もしかして陽向も星見てた?」

「祈ちゃんも?」

「うん、今日すっごく綺麗だよね。本当に降って来そう。」

「隣に祈ちゃんが居るから、綺麗に見えるのかも。」

「へ?」

「祈ちゃんのおかげで、僕の見える世界はとっても鮮やかになったんだよ。星空なんて、病室で飽きる程眺めたはずなのに……景色が180度違って映るんだ。自分が結婚できるなんて思ってなくて…っ…お父さんになれるなんてもっと思ってなくて。毎日が夢みたいなの。」


“それもこれも、祈ちゃんと陽光君のおかげなんだよ”