一週間前に避暑の目的で立ち寄った純喫茶。寂しさと虚しさを痛感しながらカフェオレを飲んだあの店内で、私は帰り際にこの男性と邂逅した。
ほんの一言、二言を交わしただけの間柄で、あの時は突然異変に襲われた感情に理解が追いつかず戸惑いが大きかったせいで、男性の顔を余り見れなかった。そんな彼とまさか再会を果たすだなんて思ってもみなかった。
改まって見ると、相手の顔立ちはとても麗しい。パーツの一つ一つが整っているし、線が細く華奢でとても儚い。だけどやはり、陽光とは全くの別人だ。外見においては寧ろ似ている所を探す方が難しい。
それなのにどういう訳か、私はこの人に陽光の影を感じている。上手く説明ができないし、これと云った証拠もない。それでも正面にいる彼に陽光を感じるのだ。
「同い年だったんだね。」
「うん、それも同じ学部だよ。」
「え?」
「安桜 祈ちゃんだよね?」
「あ、うん。そうだけどどうして私の名前…。」
「気になっているからかな。」
「はい?」
「美人で素敵だなって、入学した時から想ってた。」
「…か、揶揄わないでよ。」
「揶揄ってないよ、全部本音。」
恥ずかし気もなくさらりと甘い台詞を吐いて、クスクスと上品に声を漏らす相手に頬が熱くなる。彼とまともな会話をするのはこれが初めてなはずなのに、相手の纏っている独特な雰囲気に呑まれ、全身の緊張はすっかり解けていた。