涙腺が緩み視界が滲む私の頭を撫でるおばさんの手は温かかった。陽向に恋をするまでは、おばさんの優しさを苦しく感じる時もあった。私を責めてくれれば良いのにどうして怒ってくれないのだろうと嘆いた時もあった。


陽光の死を受け入れられず、前に進めず、藻掻いてばかりだったあの頃の私は全く傲慢で、自分よがりな人間だったのに、それでもおばさんは変わらない温かさで声を掛け続けてくれた。



この子の妊娠が判明した後すぐに、私達は私の両親と陽向の両親に報告をした。その一方で、牧瀬家への報告には躊躇があった。「陽光の分も人生を謳歌して、私に孫の顔を見せるって約束してくれる?」何時(いつ)ぞや、おばさんと交わしたその約束を忘れた日は無かったけれど、牧瀬家に妊娠したと伝えるのは相当の勇気が必要だったのだ。


色々と思案した。喜んでくれるだろうかとか、受け入れて貰えるだろうかとか…考える内にどんどん臆病になってしまっていた私を抱き締めて、陽向は迷いなく口を開いた。



「牧瀬家の方達にも一緒に報告をしよう、祈ちゃん。最近、ずっとその事を考えていたでしょう?」

「どうして…「祈ちゃんが大好きだから、祈ちゃんの事なら誰よりも分かるよ。大丈夫だよ祈ちゃん。二人できちんとこの子の存在を伝えよう。」」



彼の一言に背中を押され、報告する意志が固まり、安定期に入ってから私達は牧瀬家に赴いて妊娠を告げた。そこで待っていたのは、牧瀬家からの祝福だった。おばさんだけじゃなく、おじさんも海里も涙を流して喜んでくれている姿に、それまで抱えていた不安が全て消え去った。



私の周りにいる人達はやはり、何処までも優しかった。だけどもう、その優しさを残酷に感じる私はいなかった。