ノンカフェインのハーブティーを淹れてくれた母親がここで漸く戻って来て、私達の向かいに腰掛けた。自分の前に置かれた大きめのマグカップからは爽やかな良い香りが立ち込めて、鼻孔を掠めた。



「何の話をしていたの?」

「陽光と海里の出産秘話を語ってたの。祈ちゃんの緊張を解せるかなと思ったけど、逆に余計な心配を増やしちゃったかもしれないね。」



眉を八の字にして申し訳なさそうな視線を投げる相手に、首を横に振る。お母さんは私を帝王切開で産む事になったらしく、こうして普通分娩のエピソードを直に聴けるのは今日が初めてだった。



「そう云えばケーキ買ってたのに出すの忘れてた!祈が突然現れたせいで全部吹っ飛んだじゃない!」



たった今座ったばかりなのに、再び慌ただしく立ち上がった母親がケーキを取るべく席を離れて行ってしまった。台所からは冷蔵庫の開閉の音や食器棚から皿を取る音が聞こえてくる。


テーブルでまたもや私と二人きりになったおばさんは、頬杖を突いて靨を湛えた。



「祈ちゃんの赤ちゃんは女の子なんでしょう?祈ちゃんも陽向君もお顔が綺麗だから、どっちに似ても美人さんになるわね。」

「おばさん、昔から私の事美人って言ってくれるよね。」

「だって本当の事だもの。」

「ちょっ…恥ずかしいよ。」

「祈ちゃん。」

「ん?どうしたの?」

「ありがとうね。」

「…え?」

「約束してくれた通り、結婚して、家庭を築いてくれてありがとう。祈ちゃんが幸せそうでとても嬉しいの、祈ちゃんのおかげで私も幸せよ。」

「…っ…おばさん…私の方こそ、ありがとう。ずっとずっと優しく見守ってくれてありがとう。」

「なーに言ってるの!祈ちゃんは私の娘同然だって言ったじゃない。これくらい当たり前の事なのよ。」