「早く座りなさい」と母に促されたと同時に、おばさんが「祈ちゃんも一緒にお話ししましょう」と手招きをして自分の隣にある空席をポンポンと軽く叩いている。素直に二人に従った私は急遽、母とおばさんの女子会の席に参加するに至った。


梨の袋を持ったまま台所の方へと小走りで去って行く間際に「ハーブティー入れるから待ってなさい」そう台詞を残した母は、私が妊娠してからというもの随分と私を甘やかしてくる。

妊娠は病気じゃないのだから大丈夫だと説得を試みても、(ことごと)く失敗に終わった結果、ご覧の通りの甘えん坊になってしまった。



「おばさんも帰る時に梨持って行ってね。」

「ありがとう。祈ちゃんが元気そうで良かった。予定日はもうすぐなんでしょう?」

「そうみたいなんだけど、この間の検診ではまだまだ赤ちゃんが降りて来てないねってお医者さんが笑ってたの。」

「心配しなくても元気な子が産まれてくれるから大丈夫よ。私も陽光を出産する時に中々子宮口が開いてくれないって助産師さんが嘆いたと思ったら、そこから急に子宮口が開いて、はいもう産まれます!ってなって周りが大慌てだったの。」

「ふふっ、一度やると決めたら真っ直ぐ突っ走る陽光らしいね。」

「そうでしょう?陽光がこんな感じだったから海里の時も身構えていたのに、あの子はまぁビックリする位マイペースで、陣痛始まってから一日半経ってから産まれたのよ。分娩台に上がるまでは何があるか分からないって本当よね。」



懐かしい記憶が脳裏を過ぎっているのだろうか、おばさんの双眸が何処か遠くを眺めている。珈琲が揺れるカップを持っているおばさんの横顔が、一瞬だけ湯気の立つカフェラテの入ったマグカップを持っている陽光の姿と重なって見えた。