所謂臨月に到達した私のお腹は自分でも目を疑うまでに大きくなっている。もぞもぞと頻り赤ちゃんが動いていて、胎動を今か今かと待ちわびていた安定期前半が嘘みたいだ。もういつ陣痛が来ても可笑しくないらしいけれど、どうやら赤ちゃんはまだ子宮の中に居たい様で今週の頭に受診した際には「まだまだ時間がかかるかもしれないね」とお医者さんに告げられた。


胃が圧迫されて食事もほんの少し食べただけでお腹いっぱいになるし、靴下を履くのも、足の爪を切るのもほぼ一人でやるのは困難になった。尿意を覚える間隔も短くなって夜中に何度もトイレで起きるし、脚の浮腫みが酷くなる一方だ。


それでも、もしかしたら明日には赤ちゃんがお腹の中を去ってしまうのかもしれないと考えただけで無性に寂しくなる。その反面、早くお顔を見てこの手で小さな躯を抱き締めたい気持ちも膨らむ一方だから実に複雑な心境だ。



私のお母さんもこんな感情を抱いたのかな。陽向のお母さんはどうだったのだろうか。



「何処に行こうかな~。先生からはできるだけ歩いてねって言われてるし、いつもより遠出しようかな。」



自分が人の親になる。いずれはそうなるのだろうとただ漠然としか考えてこなかったけれど、いざ自分が母親の立場になるとお腹に宿ってくれたこの小さな命を絶対に守り抜かなければならない責任感と、ちゃんと育てられるだろうかと云う不安感。そして、自らを産んで育ててくれた両親への感謝が日に日に大きくなっている。


恐らく、この子を産んでこの手に抱いたら余計に両親への有難さが身に沁みるのだろう。これから私と陽向は数え切れない程の事をこの子から学ばせて貰うのだろう。



「早く会いたいね。…あ、でも思う存分お腹の中に居て良いからね。」



ベッドメイキングを終えた寝室を辞した私は、水分補給の目的で立ち寄ったキッチンに一際存在感を放つ段ボールに視線を留めた。