冷房に頼り切っていた暑い日がつい昨日まで続いていたはずなのに、空に鱗雲が浮かぶ様になってから瞬く間に冷たい空気が肌に触れる季節になった。秋の到来に慌ててクローゼットの衣替えをするのはすっかり毎年恒例の行事と化している。


秋用のコートと冬用のコートを引っ張り出し終えた後、寝室のベッドにある被り物も夏蒲団から冬蒲団へと交換した。



「よし、今日の任務完了。少し動いただけでも息があがるなぁ…休憩してから散歩に行こうかな。」



無意識の内に手でお腹を撫でるのがすっかり癖になってしまった。大きく膨らんで前に突き出ている自分のお腹を視界に入れる度に、何とも言えない幸せが込み上げる。ベッドの上から一歩も動けなかった悪阻を乗り越えてから今日に至るまで、実にあっという間だった。


食べたい物を食べたい時に口にする事は、永遠にできないんじゃないかとまで思ったのに既に笑える思い出に変わっている。安定期に入って、徐々に悪阻が無くなって、初めての胎動に感動して、段々と膨らんでいくお腹が嬉しくて…この子が私と陽向の元に来てくれてからというもの、毎日が尊くて仕方ない。



妊娠してから携帯で検索する内容もガラリと変わったし、定期的に購読している雑誌の顔触れも見事に変わった。妊娠中に旦那さんのサポートが皆無で大変だったと云う記事を沢山目にしたけれど、私もそうなったらどうしようと云う不安を抱く暇もない程に陽向はいつも私を支えてくれて、一緒になってここまで歩んでくれた。


マタニティー生活を充実できている大きな理由の一つは、陽向がずっと寄り添ってくれているからだ。振り返ってみても、ありがたいなと想う事柄しか浮かばない。



「もうすぐ会えるね。」



元気よく動き回ってくれる我が子に声を掛けて、大きくなったお腹の輪郭をなぞる様に撫でる。私達が寝ているベッドの傍にはベビーベッドが置かれていて、いつでも赤ちゃんを迎える用意も整っている。