冷製パスタへ向けられていた視線を持ち上げた先で、見覚えのある美しい人と視線が絡み合った。南風に揺れている桜色の髪がこんなにも似合う人間なんて滅多にいないだろう。
「あ…。」
自然と口から漏れた短い声を相手は肯定だと受け取ったらしく、私と向かい合う形で腰を下ろした。ドクンと心臓が体内に脈打つ音を響かせる。身体の奥がジンと熱を持ち、血を巡らせる血管がドクドクと激しく動くのが分かった。
嗚呼、まただ。そう思った。どうして私はこの人を前にするとこんなにも心を持っていかれてしまうのだろう。面識もなければ、彼がどんな人なのかも知らないのにどうしてこの人に全神経が反応を示すのだろう。
「ふふっ、その表情から推察するに僕の事を憶えていてくれたと自惚れても良いかな。」
頬杖を突いて唇を緩める相手が、左手で器用にカフェオレのパックへストローを刺した。彼が開封したそれは、市販されているカフェオレの中で陽光が一番好んで飲んでいた物だった。
「はい、憶えています。あの時は私が落としたお金を拾って下さってありがとうございました。同じ大学だったんですね。」
「あんなの感謝される程の事でもないから気にしないで。それより、僕達同じ学年だから敬語は無しで話してくれると嬉しいかな。」
綺麗な放物線を描く長い睫毛に縁取られた彼の双眸は、太陽光の下で見るととても色素が薄くてキラキラしている。そんな彼は冷製パスタを食べるよりも先に、ストローを咥えてゴクリと喉を動かしカフェオレを飲んだ。