特別な事なんて何も必要ないのかもしれない。傍に陽向が居てくれる。それだけで充分幸せで、それ以上に望む物なんて何もない。ちょっぴり背伸びして高級なフレンチを食べてお祝いする記念日も捨てがたいけど、こう云う日常的な記念日もとてもとても最高だ。



「そうだ!ねぇ、祈ちゃん。」

「ん?」

「もう隠し事はしないでね。」

「え?」

「苦しさも悲しさも、全部半分こにするって約束したでしょう?だからもう、お願いだから隠し事はしないでね。遠慮せずに僕に甘えてね。」

「陽向……うん、ありがとう。これからも…これからもいっぱい甘やかしてね。」

「喜んで…って、僕も祈ちゃんに甘えちゃうかもだけど。」



頬を染めて視線を泳がせる彼を見る私の目が細くなって、目尻が下がる。相手のいじらしさに耐え切れなくて、私は感情の勢いのままにチュッと彼の唇にキスをした。不意を突かれて動揺する彼に私が悪戯に口許を緩めたのも束の間、すぐに相手からお返しの口付けが落とされた。



「仕返し。」

「狡い、もっと好きになった。」

「僕はもっと大好きになったよ。」

「…っっ。」

「あ!!!祈ちゃん見て!!!桜が満開になってるよ。」

「へ?…本当だ…綺麗…。」

「食卓テーブルが祈ちゃんの好きな色に染まってるね。」

「…今年も陽向と桜が見られて嬉しい。」

「僕も同じこと思ってた。」



身体を寄せ合ってテーブルの花瓶に活けられた桜の花を二人で見つめる。来年はきっと、お腹にいる子と一緒に私達は記念日を迎えているのだろう。来年は家族三人で桜も見られたら良いな。少し先の未来を想像して、私は顔を綻ばせた。