五個目の苺が食道を通過したところで吐き気と気分の悪さが大復活を遂げて、まだまだ赤い果実が残っている皿をテーブルに託して彼の肩に凭れかかった。体調は依然としてしんどいはずなのに、妊娠が判明する以前とは違ってこの体調不良すら愛おしく感じてしまう。


空いた私の手に自らの指を絡めてしっかりと繋いでくれる彼の体温に酷く安堵する。微かに耳を擽る相手の鼓動の音が心地良くて瞼を閉じる。何一つ計画通りにはならなかったけれど、こんな結婚記念日も全然悪くない。寧ろとても素敵だとすら思う。



窓から吹き込む風にふんわりと揺れるレースカーテン越しに射し込む陽の光が、フローリングに春の陽だまりを作っている。風は冷たさを帯びている一方で、陽射しはやけに暖かい。さっきニュースでお天気お姉さんが言っていた通り、今日は絶好のお花見日和なのだろう。



秒針が時を刻む音が、リビングルームには大きく響いていた。時計に視線を伸ばして、ぼんやりと一周する秒針を眺める。心から愛する大切な人が隣に居てくれて、その人と一緒に時間を重ねていく。それって、それって本当に…。



「「幸せだね。」」



全く同じタイミングで私達の口から零れた同じ言葉。吃驚して陽向へ目線を投げれば、私と同様に目を丸くしている彼と視線が絡まった。



「ふふっ、あはは、見事にハモったね。」

「本当だね…ふふふっ、僕達息ぴったり。」



先に笑い声を上げて肩を揺らしたのは私の方で、それからすぐに彼も優しい声を響かせて頷いた。