幼馴染の貴方に恋をして、その想いを伝えられぬまま十六歳の夏に私は貴方を失った。大切な人を亡くした私の心は瞬く間に色褪せて、生きている意味すら見出せない苦しい夜を幾度となく越した。
あの時の私は、どうして貴方が私を置いて行ったのか分からなかった。当たり前の様に貴方は傍に居てくれたから、忽然と貴方が消えた途端にどうやって生きれば良いのかも解らなかった。
私も連れて行ってくれれば良かったのに。決して口には出せないけれど心の底ではそんな想いを抱えながら、亡くなった貴方の痕跡を馬鹿みたいに探し回って見つけては泣きじゃくった。
貴方を失ってからの数年間は断片的にしか記憶が残っていないの。罪滅ぼしと云うか、償いと云うか、そう云った類の十字架を勝手に背負って淡々と一日を過ごしていたからなのよねきっと。
大学二年生の夏。随分と薄れてしまった貴方の影を追う様にして訪れた純喫茶で、桜色の髪が大変に似合うカフェラテが好きな彼に心を奪われた。色が死んでいた私の心が、あの瞬間、刹那的だったけれど確かにに色づいたの。
陽向に惹かれて、陽向に恋をして、陽向と交際して、陽向を愛して、陽向と結婚して…漸く貴方が私を置いて行った理由が分かった気がした。彼に愛して貰える様になってやっと、どうやって生きれば良いのか解った気がした。
陽光。貴方が救ってくれた彼が、私は好きだよ。貴方が助けてくれた彼の命を、私は愛してるよ。
「本当…ですか?本当に、私のお腹の中に赤ちゃんがいるんですか?」
「間違いないです…「あり…がとう。…っっ…私達の所に来てくれてありがとう。」」
そしてね、陽光。もう一つの愛しい命が今、私のお腹の中に宿ってるよ。貴方が繋いでくれた命のおかげで、新しい命が誕生してくれたよ。