「ごめん…なさい。ごめんなさい。心配かけてごめんなさい。約束破ってごめんなさい。早く相談しなくてごめんなさい。」



いっぱいのごめんなさいが必要だった。どれだけ謝罪しても私が彼を傷付けてしまった事実は変わらないだろう。心配をかけまいと思って取った行動が、結局はこんなにも心配をかける結果を招いてしまった。反省してもしきれない。


涙に濡れたか細い声で謝罪の言葉を並べる私に、相手は首を横に振って「もう良いよ。もう良いから、お願いだから僕に甘えてよ」そんな優しさの詰まった台詞を落とす。



「具体的にはどんな症状なの?」

「兎に角気分が悪いの。ずっと胸焼けと胃もたれをしている感じで…でも胸焼けと胃もたれとは少し違うくて…初めて経験するからどう表現したら良いのか分からないけど、身体も怠くて、特にご飯を目に映すと空っぽの胃から胃液が逆流してくるの。」

「お腹は下してないの?」

「うん、全然。だから食中毒とかノロウイルスではないと思うし、だけど日に日に気分の悪さは酷くなるし、ご飯は全く食べられないしで…。」



この一週間の記憶を蘇らせてみるけれど、仕事以外は机に突っ伏したり横になっていたりトイレに籠っていた覚えしかない。逆によく仕事ができていたなと冷静さを取り戻しつつある今なら思える。


身体が熱い。内に熱が溜まっている感じがするのに、体温計で熱を測ってもせいぜい37.3℃前後くらいしかないのも不思議だった。嘔吐を繰り返して、倦怠感があって、微熱が出る病気って何かあっただろうか。


医師免許のない素人なりに思い当たる病名を探してみるものの、やはり私の脳内には見つからなくて、深くて長い溜め息をつく。



「ねぇ、祈ちゃん。」



私の名前を呼ぶ彼の声が、心なしかさっきよりも震えて聞こえた。天井から端麗な彼の顔へと視線が滑る。涙が止まったらしい彼は、何故かきょとんとした顔でパチパチと長い睫毛を瞬かせて言葉を続けた。



「最後に生理が来たのって、いつか訊いても良い?」

「え……。」

「……。」

「あれ、そう云えば…暫く来てないかも。」



忙しさの余り、すっかり頭から抜け落ちていた。そうだ、近頃全然月経が来ていない。疲れているせいで遅れているのだと決め付けて以来忘れ去っていたけれど、三ヶ月前くらいから月経が止まったままで…って、ちょっと待って。



これって、もしかして……。