入院になったら?大病で長期間の治療が必要になったとしたら?頭を駆け巡る疑問はどれも明るくない物ばかりで、胸の奥が針に刺されたみたいに痛くて苦しい。余裕が底を突いて全てにおいてボロボロのせいか、ドボドボと涙が溢れて視界が滲んで歪んでいく。


大切な陽向を失いたくない、陽向の傍を離れたくないよ。死にたくないよ。もっともっと陽向とやりたい事が沢山あるのに、まだまだ陽向と時間を過ごしたいのに、記念日は陽向と笑って過ごしたいのに…嗚呼、どうしよう。



「どうして私、嘘なんてついちゃったの…。」



力のない弱々しい声が、オフィスの机に落ちて溶ける。幸か不幸か、この一週間、陽向は残業続きで私達の生活は擦れ違っていた。メッセージのやり取りは頻繁にしているけれど、彼と面と向かって会話をする時間はまるでなく、朝は私よりも陽向が先に起きて出勤。夜は私が先に寝てその後に彼が帰宅と云った生活サイクルになっていた。


だからこれだけの絶不調も覚られずに一週間を乗り切れたのだと思う。だけどいつまでも誤魔化し続けるのは恐らく不可能に違いない。陽向の話だと、何の問題も起こらなければ彼のプロジェクトは今日で決着がつくらしい。結婚記念日は四日後だ、それまでにきちんと彼と話そう。嘘をついていた事も欺く様な言動をした事も白状して謝ろう。



「陽向、許してくれるかな。」



波の様に何度も何度も押し寄せる罪悪感と不安感と孕んだ涙が、頬から顎へと伝って一筋の道を作ってそして桜の花弁の様に散る。早く彼の顔が見たい。早く彼の体温に包まれたい。


早く、陽向にキスして欲しい。



「陽向の…せいだよ。陽向がむやみやたらに私を甘やかすから…こんな…こんな我儘女になっちゃったじゃない。」



愛しい人の麗しい顔を思い浮かべて泣きじゃくった昼休みはやけに長くて、私の心はいつまでも寂しさを叫んでいた。