吃驚したと同時に「綺麗…」と無意識に短い感想が口から落ちる。
「お花屋さんの前を通りかかったら、桜が売ってたんだ。ほら、そろそろ食卓テーブルの花瓶に活けている花が萎れてきているでしょう?だから次はこれを飾ろうと思って買って来たの。祈ちゃんが喜ぶかなって。」
照れて頬を染めながら、桜が我が家へやって来る事になった経緯を説明する相手は、丁寧にラッピングされたまだ一分咲きの桜の枝を取り出して優しく頬を緩めて見せる。嗚呼もう、全く愛くるしい人だ。
離れていても私の事を考えてくれている彼に胸が締め付けられて、ドクンと跳ねる。惚れた弱みなのかもしれないけれど、陽向の言動全てに私の心臓は容易に撃ち抜かれてしまう。
花を愛でる心のあるこの人が好きだ。私がお花が好きだと知ってくれているこの人がとても好きだ。毎回、食卓テーブルの花瓶活けられた花が萎れたタイミングで次のお花を私の為に買って帰って来てくれるこの人がどうしようもなく好きだ。
「ありがとう、凄くうれしい。今から咲くのが楽しみ。」
「満開になったら一緒にお花見しよっか。」
「うん!」
差し出された桜の枝を大切に抱きかかえて顔を綻ばせた私は、もう一度陽向の胸に顔を埋めて離れていた時間の分、彼の香りを吸い込んだ。他人から見ると何気ない日常の一コマに過ぎないのかもしれないけれど、私にとってはどの一コマも鮮やかに色づいていて愛おしい。