ふんわりと、春の陽だまりの如く暖かい笑みを咲かせる陽向の顔を見ただけで、今日一日の疲弊が消えていく。



結婚と恋愛は別だ。結婚すると相手への感情が日々薄れていく。いつぞやか、そんな事を誰かが言っていた様な覚えがある。剣幕な表情でパートナーへの不満や文句を並べていたのは女優さんだっただろうか。それとも、人気の大御所女性司会者だっただろうか。

兎に角、画面の向こうにいる彼女は結婚をするとときめきが一切なくなったと訴えていた。それに賛同したのは同じ番組に出演していた女性陣達で、まだ中学生だった私は寝転がってポテトチップスを食べながら結婚って夢がないんだなと思った。


そう云えば、仲良くしていたご近所さんの奥さんも子供達の為に離婚していないだけだと私の母親に漏らしていた事もあったっけ。婚活パーティーがきっかけで結婚した私の叔母も、独身の方が楽しかったと嘆いていた記憶がある。


いざ蓋を開けてみるとそこにあったのは描いていた理想とはかけ離れた現実だった。なんて事はよくある話だと思うし、もしかすると、結婚は素晴らしい物だと謳っている既婚者は、ごく僅かの限られた存在なのだろう。


だとすると、私の結婚生活は実に稀なのかもしれない。何故なら私は結婚しても毎日陽向に恋をしているし、陽向にときめきを覚えてばかりだし、日を追うごとに好きと愛してるが深くなっている。


そして何より、この人と結婚して最高に幸せだと彼の温もりに触れる度に心の底から想うのだ。



「良い香りがする。祈ちゃん、夕食作ってくれていたの?」

「うん、今日は焼き魚だよ。」

「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう。」

「どういたしまして。…その紙袋どうしたの?」

「ふふっ、じゃじゃーん!」



見慣れない紙袋の姿に私が首を捻って訊ねると、蜂蜜色の瞳が美しい目を嬉々として細めた彼が私の目の前で紙袋を開いて中身を披露した。そこにあったのは、蕾が沢山ついた桜の枝だった。