彼とのこれまでの結婚生活を反芻してみると怒涛と云えば怒涛だった。大学を卒業したその年のその月に入籍して、お互いアルバイトで貯めたお金で二人で住む為のマンションの一室を契約した。大学生の間半同棲をしていた陽向のワンルームから1LDKのここに引っ越して、インテリアや食器に至るまで、一つも妥協せずに二人で相談して揃えた。


引っ越しも落ち着いて新婚生活を営む様になって間もなく、私達はそれぞれ内定を貰っていた企業に入社。新居で寛ぐ暇もないまま社会人生活が幕を開けた。大学生の時は時間の許す限り彼と過ごせていたけれど、社会人になるとそうはいかない。当たり前だけれど、陽向と過ごす時間は社会人になって明らかに減ったと思う。



正直、新しい生活習慣に身体が順応するまでが大変だった。大学に通ってた頃とは違う路線で通勤する位の変化は可愛い物で、通勤ラッシュの人波に揉まれてヨレヨレになりながら出社してからが地獄の始まり。

新入社員で右も左も分からない私は、先輩から教わる業務を覚えるだけでも頭が一杯で、少し歩いたら記憶した内容が零れ落ちて忘れてしまうのではないかと懸念が募る程だった。退勤の時間になる頃には体力が底を突いていて、一日中張り詰めていた緊張が解けた途端に学生では味わった事のない疲労感が押し寄せる。



仕事だけでも追いつくのに精一杯だったけれど、結婚している私には仕事とは別に家事が待っていた。と云っても、私とは出社時間がずれている陽向が朝の家事は全て片付けてくれていたので、私がやる家事と云えば夕食を作るのと干されている洗濯物を取り込んで畳む程度の物だった。しかしながら、たったそれだけの家事すらこなすのが難しかった。