だけど、そろそろちゃんと現実を受け入れなくちゃいけないよね。きっとそれが、私にできる唯一の罪滅ぼしだと思うから。
ぐしょぐしょになっている頬をシャツの袖で強引に拭った私は、背中を擦り続けてくれている相手の手を取ってぎゅっと握り締めた。
「約束…する。」
「祈ちゃん…。」
「約束する。ちゃんと陽光の分まで生きて、おばさんに孫の顔を見せるって約束するね。」
大好きな陽光と瓜二つの澄んだ瞳を見つめながら、無理矢理で歪な作り笑顔を貼り付ける。随分と不細工な笑顔に違いない、陽光が見たら笑われている事だろう。だけど今だけはこの笑顔で勘弁して欲しい。
ちゃんと、ちゃんと向き合うから。現実を受け入れて、その現実を生きて、いつか必ずもっとマシな笑顔を浮かべるからだからそれまでは、弱虫な私を許してね陽光。
「うん。ありがとう…ありがとう祈ちゃん。」
一筋の涙を落としたおばさんの声は、微かに震えていた。それでもおばさんは、心底嬉しそうに目を細めてくれた。
肌が火傷してしまいそうなくらい陽射しが強かった。本格的な暑い夏が今年もまた当たり前の様に訪れる。向かいの家の庭に伸びている樹からは体内時計が狂ってしまったらしい蝉の泣き声が上がっている。
陽光のいない五回目の夏。私の心はまだ色褪せたままだ。