「祈ちゃん、熱くなってるよ。」

「陽向だって熱くなってるよ。」

「だって、祈ちゃんが大好きだから。」

「…っっ。」



純粋に言葉を紡ぐこの人に、私は全然敵わない。蕩ける様に甘く微笑むこの人に、私は更に恋をする。一緒にご飯を食べて、今日何があったのかとか面白そうな小説を見つけたとか、お洒落な喫茶店を見つけたとか…そんな日常的な会話をする。そして二人でベッドに潜って身体を寄せ合って眠りに落ちる時に、私は毎晩幸せを噛み締める。


些細な幸せ一つ一つのどれもが愛おしくて仕方がないし、その幸せを私にくれる陽向を心から愛している。



「ケーキ、温くなる前に食べよっか。」

「…うん。」



コクリと頷いた刹那、絡まっていた手が離れ離れになった。まだ彼の温もりが掌に残っているにも関わらず、もう既にこの人の体温が恋しい。箱の中に両手を入れる陽向がやけに愉しそうな表情を浮かべるから、私の頭の中は疑問符で埋め尽くされる。


だけどその疑問は、箱から登場した華やかなケーキによって吹っ飛んだ。



『幸せをくれてありがとう、僕も祈ちゃんを幸せにします』



ホワイトチョコレートで作られたプレートにガタガタのチョコペンの字で綴られていたそれを読み終えた私は、視線を持ち上げて恋人の姿を視界に捉えた。「ごめんね、初めてやったから上手にできなかったの」そう云って苦笑を滲ませているけれど、そんな事はどうだって良かった。


私に気付かれない様に、独りで一生懸命慣れないチョコペンでメッセージを書いてくれたのだろう。悪戦苦闘しながらも文字を綴る陽向の姿を想像したら、私の顔が自然と綻んだ。



「こんな私ですが、末永く宜しくお願いします。」



感極まって頬に流れた涙をすかさず指で拭ってくれた陽向が、切り分けたフルーツタルトを乗せた皿とフォークを私に差し出して開口した。



「幸せにするって約束するね。」

「好きだよ、陽向。」

「僕も好きだよ、祈ちゃん。」