透き通っていて色白の陽向の肌に、淡い桜色の髪の毛はとても映える。彼と初めて邂逅した純喫茶で私の目を惹いたのも、この桜色だった。
私からの質問を受けた相手は端麗な顔を上げて、ふふっと柔らかい声を漏らす。デイジーの花を模したケーキ皿二枚とケーキナイフ、それから冷蔵庫で出番を待っていたケーキの入った箱を持って向かいの戻って来た彼の澄んだ双眸に、私の顔が映される。
身に纏っているクリーム色をしたニットの袖口を折って華奢な腕を肘まで露出させた相手は、悪戯を企んでいる子供みたいに無邪気な笑みを湛えていてどうしようもなく可愛らしい。
「祈ちゃんが好きな色だから。」
「え?」
「そして、僕も好きな色だから。」
「……。」
「だから、桜色に染めたくなっちゃった。」
溜めて溜めて溜めて、漸く彼が口に出してくれた回答に目を大きく見開いた。いつしか、似た様な台詞を私に吐いた陽光の顔が脳裏に蘇った。
私が好きな色だから。そんな単純な理由のみで髪をピンクにすると豪語した幼馴染に、あの時私は「馬鹿じゃないの」と返した。本当は嬉しかったのに、素直に喜びを表現しようともせずに照れ隠しで素っ気ない返事だけを零してその場を濁したのだ。
そうして貴方を亡くした時に、激しい後悔に苛まれた。
「あはは、単純な理由だね。」
「うん、でも大切な理由だよ。」
「ありがとう、嬉しい。」
「似合ってる?正直、もう年齢的にアウトって云われたらどうしようって冷や冷やしてたんだ。」
「そんな事ないよ、世界で一番似合ってる。」
手を伸ばして、彼の猫っ毛に指を絡めた。ドストレートに褒められると思っていなかったのか、私の言葉を聞いた陽向の頬がジワジワと桜色に染まっていく。右へ左へと視線を泳がせて戸惑っている陽向に胸の奥がキュンと鳴った。