陽向と何度も挨拶の言葉を練習したのに、それ等が一瞬で吹っ飛んでしまった私達は、おじさんとおばさんと一緒になって大泣きした。牧瀬家へ挨拶に行った日の事は、私も陽向もこれから先永遠に忘れる事はないだろう。
「幸せだね、陽向。沢山の人におめでとうを貰えて、喜んで貰えて。私達は幸せだね。」
「ふふっ、そうだね、いっぱい恩返ししようね。」
「うん。」
何気なく彼が落とす台詞には、どれも皆彼らしい優しさが詰まっている。陽向の当たり前の如く注いでくれる優しさに私がどれだけ救われているかを、きっと彼は知らない。
可憐に綻んでいるブルーデイジーの花越しに見える陽向はとても美しい。髪の毛が桜色に染まっている彼を見るのが久し振りなせいか、余計に美しく感じる。
「あ、そうだ。」
「どうしたの祈ちゃん。」
「さっき訊くつもりだったのにすっかり忘れてた。どうして髪色、桜色に戻したの?」
空になった食器を片付けてキッチンへと行く陽向に質問を投げる。髪色にしては個性的で奇抜な桜色だと云うのに、やはり陽向にはこれ以上にない程によく似合っている。
就活が始まるのを機に彼の桜色の髪は暗い色へと染められた。無論、黒髪でも彼は綺麗だし、黒髪の彼も私は好きだ。だけどもう桜色の髪を見られないのかと思うと寂しさを覚える私もいた。