どうして私がいつも以上に料理に気合を入れていたのかと云うと、さっきの私達の会話からも分かる様に、私と陽向の就活がとても良い結果で終了したお祝いを今夜しようと約束していたからだ。



ありがたい事に私は早い段階で第一志望だった企業から内定の通知を受け取ったのだけれど、狭き門を突破しなければならなかった陽向の就活は夏まで続いていて彼が内定を貰うまでは私もドキドキハラハラの日々を送っていた。


そんな陽向が内定を貰ったその日に私にプロポーズをしてくれたあの夏の日がまるで、昨日の事の様だ。複雑な心境を自分勝手に抱えて苦悩していたせいで、プロポーズを断ってしまった事も今では笑える思い出になっている。



すぐにでもお互いの就活が終わったお祝いをしようと計画は立てていたものの、大学のレポート課題やテストの合間に自分の家族に陽向を紹介したり、陽光の家族に陽向を紹介したり、そして陽向のご両親への挨拶をしたりしている内にどんどん月日が経過して今日になってしまったのだ。



「ねぇ、祈ちゃん。」

「ん?」

「僕ね、祈ちゃんのおかげで毎日が幸せだよ。」

「私の方こそ、陽向のおかげで幸せがいっぱいだよ。」

「祈ちゃんに出逢えたのも、祈ちゃんと恋人になれたのも、祈ちゃんの婚約者になれたのも、陽光君の心臓に命を救われたからこそなんだって思う度に、彼に感謝してもし切れなくて泣いてしまいそうになるの。」

「……。」

「こんな風に歳を重ねる事ができるなんて…絶対に無理な未来だって思ってたから未だに不思議な感じ。」



照れ臭そうに頬を人差し指で掻いて、視線を逸らしてハニカム彼の言葉一つ一つにどうにか堪えていた涙が又、浮かび上がる。