海里の言う通りだ。例えどれだけ可能性が低くても、その可能性が零ではない限り偶然は現実に起こり得る。その偶然をきっと、奇跡と呼ぶのだろう。



「陽向が生きていてくれている、それだけで十分恩返しになってるんだよ。」

「…っっ…祈ちゃん。」

「生きていてくれてありがとう、陽向。それから、私と出逢ってくれてありがとう。」



貴方を私の前からいなくなってしまった夏が苦手だった。貴方の優しさや、貴方の香りや、貴方の声や、貴方の温度を嫌でも思い出させる夏が苦しかった。だけどね、陽光。貴方のおかげで私は夏が好きになったよ。


陽向と出逢って、陽向に恋に落ちて、陽向にプロポーズされたこの季節がちゃんと愛おしい。クサい台詞に聴こえてしまうかもしれないけれど、それでも私と陽向が恋に落ちたのは「運命」なんだと信じている。


だって、運命以外に当てはまる言葉が他に見つからないでしょう?そうでしょう?陽光。



「ねぇ、陽向。」

「ん?」



もう二度と愛おしい存在を失わない様に、誰よりも近くで護りたい。感情を隠さずにちゃんとこの気持ちを言葉にして伝えたい。これからの時間を愛おしい彼と紡いでいきたい。


首を少し傾げた陽向の唇に自ら接吻を落とした私は、驚いて瞬きを繰り返す彼の蜂蜜色の瞳を見て唇に弧を描いた。