どんな反応をすれば良いのだろうか。どんな言葉を返すのが正解なのだろうか。頭を動かすけれどまともな答えは浮かばなくて困惑する。

そんな私を余所にすぐ近くまで歩み寄って来た相手が、ポンっと優しく私の肩に手を置いた。私の視界に映る女性は、温かい微笑みを湛えていた。



「ねぇ、祈ちゃん。」

「……。」

「私ね、祈ちゃんが恋をして、愛する人と結婚して、何物にも代えがたい子供を産んで幸せな家庭を築いてくれる事がとても楽しみなの。」

「…っっ。」

「これは祈ちゃんに気を遣ってる訳でもなくて、純粋に心から想っている事なの。」

「おば…さん…。」

「陽光を忘れないでいてくれる祈ちゃんにはとても感謝してる。だけどね、祈ちゃんには過去に囚われて新しい一歩を踏み出せなくなる様な事だけはどうかしないで欲しいの。」

「でも、陽光は私のせいで…「祈ちゃんのせいじゃない。」」



ぐっと堪えていた涙が我慢できずに溢れ出て、ぐしょぐしょに頬の濡らし、私は幼子みたいに嗚咽混じりに呼吸すらも忘れて泣き叫んだ。


顎を伝って地面へと落ちる涙が地面に染みを作った途端に、灼熱の太陽に晒されてすぐに蒸発していく。



「祈ちゃんのせいじゃないよ。陽光だってそう思ってる。祈ちゃんは私にとってもう一人の我が子同然なの。娘には幸せになって欲しいの。」

「おばさん、ごめんなさい…おばさんの大切な息子を奪ってしまってごめんなさい。」

「謝らないで。祈ちゃんは陽光を奪ってなんかないよ、だって祈ちゃんが誰よりも陽光を大切に想ってくれていた事を私は知っているんだもの。」



肩を揺らして号泣する私の背中をそっと擦りながら、強く抱き締めてくれるおばさんからは陽光と同じ香りがした。