「十八歳まで生きられるかどうか分からない。最初からそう宣告されてて、幼少期は入退院や手術を繰り返してた思い出しかないの。だけど両親や周囲の人間の助けのおかげでどうにかこうにか小学校に入学して、中学校に入学して、そして高校に入学した。激しい運動は禁止、毎日服用する大量のお薬、相変わらずの入退院の日々。だけど心の何処かで、もしかしたら十八までしか生きられないなんて嘘だったんじゃないかって思ってた。もっと生きられるんじゃないかって淡い期待を寄せていた。」

「……。」

「だけど高校二年生に進級したと同時に急激に容態が悪くなって、主治医に僕の命が夏まで持つか分からないって二回目の余命宣告を受けたんだ。非情な現実に打ちのめされて絶望してた。どうして生きられないんだろうって、辛うじて動いてる心臓が数か月後には停まるだなんて想像すらできなくて、両親がいない隙をついては泣いてばかりいた。」



過去を思い返しているのだろう、遠くを見つめながら話を続ける陽向の表情が余りにも苦しそうで、私の胸まで苦しくなる。十八まで生きられないと余命宣告された彼が、今、私の目前にいる。こうして私を抱き締めてくれている。そう考えるととても不思議な感覚がする。


無謀だとは知っていても、過去に戻って泣いている彼の涙を拭ってあげたい。私じゃ何もできないだろうけれど、彼を抱き締めて彼が憂鬱な気持ちにならない様に色んな話をしてあげたい。



だって私は、陽向の花が綻ぶ様な笑顔が大好きだから。



「諦めていたんだ。僕は、自分の人生が幕を閉じるのを待つだけしかできないんだって思っていた。それなのにね、余命一週間を迎えた時に云われたんだ。君に心臓を提供してくれるドナーが見つかったって。僕、血液型がRHマイナスのB型だから臓器移植の道はすっかりない物として考えていたのに、そんな僕に適合するドナーが見つかったって主治医が云ったんだ。」

「…っっ。」

「僕はその言葉が…っ…希望の光の様に感じたの。誰かが犠牲になった上での自分の延命。それを分かった上で…僕は…僕は…臓器移植と云う最後の望みに縋っちゃった。」



震えてる。陽向の声が、手が、肩が、震えてる。蜂蜜色の瞳がユラユラと揺れて、段々と溢るる涙で潤んでいく。それでも尚、陽向はとてもとても麗しくて、私の視線を彼に釘付けになった。