私の唇に、彼の唇が重なった。チュッと触れるだけの接吻だけれど私の心をときめかせるには十分な接吻で、指先で陽向の熱が移ったそこを撫でる。
「可愛いよ、祈ちゃん。愛してるよ、祈ちゃん。」
「…っ…私も…私も陽向を愛してる。愛してるの。」
「ふふっ、うん、ありがとう。だけど僕の方が愛してるかも。」
涙で化粧が崩れて悍ましい顔になっているはずなのに、そんな私の頬を手で愛撫する彼の蜂蜜色の双眸は、とても優しくて温かい。寂しかった。彼と離れ離れで過ごしていた時、酷く寂しくて、毎日が退屈で、苦しかった。
私はもう、陽向が居てくれないと駄目なのだと思い知った。陽向との時間がどれだけ慈しみに満ち満ちていたのかを改めて突きつけられた。そして幾度となくこの人を想って泣いた。
相手の胸に顔を埋めて、離れていた分の温もりと香りを取り戻す様に鼻腔を膨らませる。そんな私の身体を無条件で抱き締めて、私の頭にそっと手を置いてくれる陽向は相変わらず私をドロドロに甘やかす。そして愛おしさが又溢れ出る。
「海里から…陽光の弟から聴いたの。六年前の今日、陽光が最後にこの世界に遺してくれた物の事を。ねぇ、陽向。」
「なぁに、祈ちゃん。」
「陽向の秘密を、聴きたい。陽向の秘密を、訊いても良い?」
顔を上げて、澄んでいて美しい彼の双眸と視線を絡める。私の投げた質問に微かに目を見開いた後、彼はすぐに美しい顔を綻ばせて頷いた。
「聴いてくれる?僕の秘密。祈ちゃんに聴いて欲しいな。」
風に散々吹かれて、汗に濡れて、すっかりベタベタしているはずなのに。そんなの関係ないとでも云う様に、陽向は私の髪をそっと掬ってそこに口付けをして頬を緩めた。