私の身体を彼が受け止めた途端、視界に映る景色が凄い速さで流れていき、私達は一緒になって廊下に崩れ落ちた。私が感情任せで勢いをつけ過ぎてしまったのだと腕や足に衝撃を受けて初めて気付く。
きっと私よりも地面にぶつかった面積の広い彼はもっと痛い思いをしただろう。それなのに、上体をすぐに起こした陽向は、私の両肩を掴んでこちらの顔を覗き込んだ。
「大丈夫祈ちゃん!?怪我はない!?!?」
「え…。」
「怪我は?」
「あ、えっと…大丈夫。それより陽向の方が怪我したんじゃ…勢いよく飛び込んでごめんなさい。」
はっと我に返り、私が押し倒したのだと疑われても何ら違和感のない態勢になっている状況を脳が理解した刹那、頬が熱くなってやがてその熱が頬から耳へ、耳から首筋へ、首筋から手足へと伝播する。
何て大胆な行為をしてしまったのだろう。幾ら気持ちが昂っていたとは云え、一歩間違えば大怪我だ。精神年齢の低い自らの言動が恥ずかしい。こんな調子では陽向に振り向いて貰えないかもしれない。
「ふふっ、あはは、あはははは。」
大反省会を独りで開催し始めた私のまだ火照りが残る耳に触れたのは、ふんわりと柔らかで色気を孕んだ笑い声。降下していた視線が反射的に上昇する。切り替わった視界を独占したのは、堪え切れないと言いたげにお腹を抱えている陽向の笑顔だった。
「わ、笑わないで、恥ずかしい。」
「どうして?可愛いよ。」
「嘘だぁ。」
「本当。」
“ねぇ、祈ちゃん”
火照る顔を隠そうとした手を掴まれて、暗闇で目元が覆われる代わりに、蜂蜜色の双眸と視線が合わさった。胸がキュンと締め付けられる。この人がとてもとても愛おしいと心臓が叫んでいる。