愛おしく優しいその温もりが、永久に傍にある物だと過信していた私は「好きだよ」と云う言葉すら、陽光に伝えられなかった。貴方からも「好きだよ」を聴けていないままだ。
私達が悠長に隣にある幸せに甘えて胡坐をかいていた高校一年生の暑い夏のある日。
陽光は……。
貴方は………。
「祈ちゃん。」
自宅の門に手を掛けていた私は、不意に耳を突いた声によって動きを制された。優しさの詰まったその声は、彼によく似ている。
頭を持ち上げて声のした方へと向ければ、二軒隣の家の前に買い物袋を提げた女性が佇んでいた。
「おばさん、こんにちは。」
「こんにちは。祈ちゃんは大学の帰り?」
「うん。」
「勉強は難しい?」
「どうにか付いていけてるけど、やっぱり高校とは全然違うかも。きっと頭の良い陽光なら……。」
途中まで言葉を紡いでハッとした私はすぐに口を噤んだ。何を言っているのだろうか。不謹慎にも程があるし、いくら注意不足だったとは言え口を滑らせ過ぎだ。
罰が悪くなって顔がぐしゃりと歪む。声を掛けてくれた相手に申し訳なかった。
「大学には、イケメンいる?」
「え?」
「色んな学部があるから一人くらいは祈ちゃんのお眼鏡に適う男の子もいるんじゃない?」
「えっと…。」
「だって祈ちゃんはこの辺では知らない人はいない程の美人だもの。大学に入って益々綺麗になってるし、引く手数多じゃないかしら。」
次から次へと言葉を連投しては、クスクスと楽しそうに相手が笑っている。悪戯っ子みたいなその姿が陽光と余りにもそっくりで胸の奥が痛くなる。